進藤詩子さんよりいただいた感想をご紹介します。彼女が企画した「まいにち美術でいきている」展に蔦谷楽が参加しました。
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フライヤーを通して本展があることを知った時、「せかいのつくりかた」というタイトルに対して素直に(そのやり方を教えてくれるのかな、だとしたらすごいなあ)と思い、シンプルでおしゃれな案内図のようなデザインに見入った 。しばらく横浜に向かう機会をなかなか得れず、最終日の夕方、急ぎ足で会場の似て非ワークスへ向った。途中、黄金町の川沿は花見に集う地元の客で溢れ、日本では珍しく雑多な人種が住まうこの町は、より一層その独特な華やかさを充満させていた。
私の知る夜の似て非ワークスと異なり、夕方の光が差し込むその日の会場は、建物の過去と現在を露にしていた。そして、たった今ここで起きている パフォーマンス(富田さん)やワークインプログレス(楽さん)が、展覧会が未来に向かって現在進行形で「せかいをつくっている」ことを象徴していた。 クロージングを祝う客が展示会場の動的な印象をより強くする。 バー空間と音響器具に挟まれる展示壁、金庫を改造した展示室、中二階のカフェ&展示スペース、舞台会場も兼ねる広い展示スペース、その2.5階に及ぶ会場全体に作品が散らばる。天井から吊るされている作品や黒板に描(書)かれた作品を見ていると、観客が動くことで揺れたり、或は衣服があたって文字が消えたりするのではないか、そんな想像が膨らむ。見過ごされないように、主張する作品達。ホワイトキューブでない空間では、弱いものは掻き消され、強いものだけが残る。弱強を決めるのは生命力の有無。
賑わう会場の中で、「せかいのつくりかた」を教わらなくとも、 つくる行為自体がせかいである、といったようなことを一人考えた。そもそもあなたがいなければ、せかいなどは存在しないのだから。せかいが「世界」と表記されない本展タイトルは、誰かが作った言葉を使ってはあなたのせかいはあり得ない、ということを言っている気がした。10年前、世界はどのようなところなのか、といった問いを抱えながら現代美術の道を選んだ頃を思い出す。迷う私に対してお世話になったある先生が、「美術は見るのも面白いけど実際に作る方がもっと面白いよ」とニコニコしながら言ってくれたこと。
一階では、ひっきりなしに訪れるアーティストや関係者が、わいわいと歓談を楽しんでいる。外に出ると、すっかり日が暮れた川に浮かぶ屋形船からも、楽しそうな笑い声が聞こえる。それぞれが、今、それぞれにせかいをつくっている。その町をわたしも自分の一部に取り込んで、帰りの電車に乗り込んだ。
進藤詩子(アーティスト)
「まいにち美術でいきている」展 13/06 - 29/07/2012
Living Everyday by Art project @ Youkobo Art Space, Tokyo